14. 11月 2013 · なぜ聴こえなくても作曲できるのか はコメントを受け付けていません。 · Categories: 作曲
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ベートーベン「月光ソナタ」の自筆譜

 

前回は、楽器を演奏するときに、心の中でどれだけ「歌って」いるかが、
実際の音に表れるというお話をしました。

前回の記事 楽器の演奏で「歌う」とは?

 

心の中で音楽を聴く

心の中で。

これがとても重要。

心の中で歌えるということは、つまり
心の中で聴こえている、ということでもあるのです。


実際に音が鳴っていなくても、心の中で音楽が流れることってありませんか?
いわゆる「脳内再生」っていうやつ。

気に入った曲や、ハマってしまった曲などは、
何度も何度も脳内でリピートしていたりすることがあります。

そういう時に流れているのは、たぶん歌だけではないですよね?
全体の伴奏のかんじとか、リズムとか、イントロのメロディーとか。

もちろん、人によるかもしれませんが、
私の場合は、ほんとにその曲のぜんぶ、あらゆる楽器の音色やリズム、
歌の歌い回しからコーラスの入り方まで、
「音楽全体」として脳内再生して流れていることがよくあります。

考えてみれば不思議なことです。
聴覚を使わずに、心の中で音楽を聴いている。
これって脳みそのどこを使ってるんだろう?
実際の音信号を処理しているわけではないから、聴覚野ではないんでしょうね。
記憶の領域なのかなあ・・・
専門的なことはよくわからないので、それはおいといて。

 で、とにかく、記憶であったとしても、
聴覚を使わずに音楽を聴くということが人間には可能です。
かっこよく言うと「心の耳で聴く」ですね。


作曲家の聴き方

 ところで、多くの作曲家は、
聴こえてきた音がドレミでいうと何であるか、
和音でいうと何であるか、
リズムが何音符でどういう組み合わせになっているか、
というのがすぐわかります。
音色や様々なニュアンスについても、
これはこの楽器で何をやっているからこうなっている、というのが
プロならたいていわかるものです。

だから、いわゆる「耳コピー」もすぐにできるし、
聴いた音をそのまま楽器で弾いたり、楽譜にも書けるものです。

それは、「読む・聴く・書く・歌う」という
音楽の基本的な訓練を重ねてくる中で
「音符・楽譜」という目の情報や楽器の知識と
「音・メロディー・和音・リズム」という耳の情報を
徹底的にすり合わせて記憶しているということだと思うのです。

ということは、
実際に聴こえてくる音に対して、そのように「何の音かわかる」のだったら、
心の中で聴こえている音に対しても、同じように「何の音かわかる」ということです。

ということは、
心の中で音が聴こえれば、それを楽譜に書ける、ということなんです。
ベートーベンが、耳が聴こえないのに作曲できた理由はここにあります。

Beethoven


■楽器を使わずに作曲する

 たとえば、日本人である私たちが日本語を使う時、
心の中で思ったことを、すぐに適切な言葉に変換できるように、

作曲家が作曲するというのは、
心の中に聴こえたことを、すぐに適切な音符に変換できる
ということだと思うのです。

そういう力を、作曲の世界では「耳がいい」という言い方をすることがあります。
実際に聴力検査の数値がいくつ・・・という意味ではなくってですね。

東京芸大の作曲科の入学試験では、8時間も教室に缶詰めになって
室内楽を作曲します。楽器は一切使いません。
数十人が机に並んで、ひたすら五線紙に音符を書き続けるという、
恐ろしい試験です(笑)
心の中に、ピアノや弦楽器や管楽器の鳴り方、合わさり方を
「聴きながら」作っていきます。

もちろん、ベートーベンとは比べるべくもありませんが、
心の中で音を聴いて音符・楽譜に変換するということは
作曲科志望の若者ぐらいでも十分できることだということです。

そういうわけで、ベートーベンは、天性の資質に加えて、
聴こえていた頃に経験した、膨大な音と音符と音色の
すり合わせの記憶があったからこそ、
心の中に豊かに音楽が流れたのではないかと思います。

そして心に流れた音を完璧に音符に変換して、検討し、彫琢し、
楽譜に書くことができた。
だから、楽器を鳴らして聴覚で確かめなくとも
緻密に作曲することができたのです。

ただ、もちろんそれゆえの限界というのもあり、
常套手段を超えた、複雑な和音進行や音型を生み出したりするには
おそらく楽器の力が必要だったかもしれないと、私は感じます。

ベートーベンも、
指揮棒を噛んでピアノに当て、骨伝導を利用して音を聴きながら
ピアノの前で作曲していたという話もあるので、
やはり楽器を使うにこしたことはないのでしょう。


しかし、それほど、人の記憶と脳の力、
心で聴く力、心で歌う力はすごい!と思わされるのです。
その領域こそが、音楽が生まれる源泉なのではないか
と思われてなりません。

 

 

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